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公衆衛生学 / 疫学 / R. 知識をサッと持ち出せると良いよね

[備忘録] 英語論文の書き方 ver.2022 3月

今年度は自分の修論に加えて、3本の研究に共著として関わらせていただきました。自分の論文の進め方には反省点が山程あるし、共著で原稿を一緒に書く作業を通じて学ばせていただいたこと・気づきがたくさんありました。

こうした経験を通じて、「こう研究を進めるとスムーズなんだな」「こうすると消耗感がすごいな」と現段階のレベルである程度整理できたので、研究の進め方シリーズを備忘録として残そうと思います。あくまで自分向けコンテンツです。しかも、どうせこの先アップデートされます。まだまだひよっこですから。ということで、ver.2022 3月という話。

第1回は英語論文の書き方編です。とにかく書くことにフォーカスします。

今回の記事では、全体→ パラグラフ→ 文と文→ 1文と、大枠の捉え方からスタートし、1文の書き方に関する内容の順でお話します。大枠から作ること、コアメッセージは細かい議論の前にしっかり固めること、その上で文レベルの見直しを進めること。そういう流れを考えています。

備忘録的特性が強いので、ちょっと読みにくいのは許してね。

 

基本姿勢

  • 筆者は論文を科学的知見を伝えるために書く
    • 伝わるように書かなくてはならない。単なる文字の羅列は自己満足。
    • 読者の認知的負荷をできるだけ減らしつつ、正確に情報を伝えるべく努力する
  • 読者は論文を科学的知見を理解し、今後の研究・実践に役立てるために読む
    • 読者といってもその像はまちまち。
    • 筆者は「この論文を読んでほしい読者はどんな人か?」を想像し、その上で単語・説明のレベルを想定するべき

基本の基本は次の2つ

  1. 伝えたいメッセージをきちんと磨く
  2. メッセージができたら、読者を意識し、読者が理解できることを最優先に書く

 

全体の構成

公衆衛生系の論文はIntroduction, Methods, Results, And Discussionで構成されるIMRAD形式を基本的に採用します。また一般に、研究手法・領域ごとにresearch reporting guidelinesがあります。例えば、介入研究におけるCONSORT、観察研究におけるSTROBE (日本語版)、システマティックレビュー・メタ分析のPRISMAがあります。少しニッチなところだと、Operational research領域のシミュレーションに関するガイドラインSTRESSなども。まずは対応するガイドラインを必ず手元に置きましょう。

 

FYI: ガイドラインまとめ

www.nlm.nih.gov

 

Introduction

Introductionの到達目標は、①研究のロードマップを示し、②研究の目的を説明することだと考えます。そのために、いくつかの守るべき事項があります。

  • トピックの重要性・新規性・尤もらしさを説明する(∵ いずれかが成り立たない研究ならば、調べる価値が乏しい)
  • 冗長に書かない、関係がないことは書かない(自分は冗長に書きがち。気をつけて)
  • Discussionで用いる内容を登場させる(ちゃんと伏線張ること忘れずに)

Methods

Methodsの到達目標は、研究目的に対応し、かつ結果の記載する内容に対応した手法を読者に提示することだと考えます。

  • 研究の目的と以下の内容を対応させる
    • 研究対象者
    • 評価尺度
    • 解析手法
  • Resultsに書く内容をMethodsに書く
  • 倫理に関する情報と、研究のガイドラインに関する情報
  • 事細かに書かなくてはならないわけではない。適宜appendixを用いる。
    (僕はこのあたりが下手)
    • 多くの読者は「この研究を再現したい」と思っているのではなく、「この研究では何をやったのかな?」を理解したいだけ。
    • 再現したい読者に向けた内容はappendixでok

Results

Resultsの到達目標は、研究で実施した内容を淡々と伝えることです。やったことを書くだけなので、考察してはいけません。

  • Methodsで示したことを書く
  • 考察・結論に関連する情報を書く
    • demographic characteristics: どんな人間がいたか→ participantsとtarget populationはどのように異なるのか?異なるならば、generalizabilityにどのように影響があるか?(participantsとtarget populationの特徴が異なるからといって、必ずgeneralizabilityに問題があるわけではない)
    • 欠損値や脱落: selection biasは生じうるのか?
    • 主要な結果: 当然書く。有意だろうと非有意だろうと関係なし。
  • 全部書かなくて良い。考察・結論で引き合いに出さないなら、書かなくて良い

Discussion

Discussionの到達目標は、introductionとresultsに対応した上で最終的な結論を提示することです。結果と結論は異なります。結果は(ミスや不正が無い限り)揺るがぬ事実ですが、結論は研究の特性や限界を踏まえた上で研究者として提示するメッセージです。したがって、研究の目的・手法・結果を解釈した上で、読者に対するメッセージを慎重かつクリアにお届けする必要があります。

  • 結果のまとめ
  • なぜ今回の結果となったのか(introductionと紐付ける
    • 仮説が支持されたかどうか
    • 先行研究との一致・不一致
    • カニズムの考察
  • 限界
  • 結論として何がいえるのか(ここをしっかり磨く)

 

パラグラフの構成

パラグラフは1つのアイデア・論理を伝えるための文章の塊です。Introductionとdiscussionは特にパラグラフ構成に注意する必要があります。ポイントは、執筆段階でパラグラフの内容を先に書き出してしまうことです。

Introduction

Topic sentenceとsupporting sentencesを意識しましょう。topic sentenceはそのパラグラフで伝えたいキーメッセージです。一方、supporting sentencesはtopic sentenceを根拠付けるための文章です。Introductionでは、各パラグラフのtopic sentenceだけを読むだけで、研究目的を理解できるように構成するべきです。これを達成するためには、topic sentenceを書き出し、それらを読むだけで理解できるかを確認すべきです。よくある構成例を提示します。

  1. 背景
    (例: うつ病は公衆衛生的に重要な課題である)
  2. 既知のこと
    (例: うつ病の予防として、認知行動療法が効果的であることが知られている)
  3. 未知のこと
    (例: 非対面で行うインターネットを用いた認知行動療法の効果は知られていない)
  4. 目的
    (例: 本研究の目的は、インターネットを用いた認知行動療法によるうつ病予防効果を調べることである)

こうした考え方を適用すると、topic sentenceはある程度抽象的になります。複数のパラグラフで研究目的に至るまでの主要な命題を提示し、各パラグラフ内で命題に根拠付けるsupporting sentencesを記載する。こうした構成でintroductionを作りましょう。

Introductionの内容は論文全体に影響するので、かなり練り込む必要があります。読者が短時間で理解しやすいような明快なtopic sentenceが必要です。同時に、メッセージを根拠付け、discussionで議論したい内容を過不足無く織り交ぜるために、supporting sentencesを書いていきます。難しいことなので、他人に読んでもらってコメントをもらいましょう。

Discussion

1パラグラフで1議論です。解釈・議論が可能な結果は複数あることが一般的だと思います。これらをまとめて議論するのではなく、1パラグラフの中で1つの議論を行いましょう。

「1パラグラフ1議論」は当然のように感じますが、意外と混同してしまったりします(特に僕は)。あれもこれも...とならないために、「このパラグラフでは〇〇を論じます」と先に書き出した方が良いだろうと思います。

 

文と文のつながり

文のつながりの重要性は、ここ数ヶ月で強く感じました。複数の文を引っかからずに読んでいただくために注意するべき項目を2つ整理します。

Topic positionとstress position

英文では文頭をtopic position、文の終わりをstress positionと呼びます。私達は無意識に文頭で「どんな話題がくるのかな?」と期待し、文末では「新情報や重要な情報が来るだろう」と期待してしまうようです。したがって、文頭には既知の情報やトピックとなる話を、文末には新情報を書くことが重要です。この順序が逆になると、とても気持ちの悪い文書を作ってしまうことになります。

具体的に確認しましょう。こちらの例がとっても秀逸です。特に2ページ目が明快。

toyokeizai.net

こちらの例のように、新情報を後ろにおいた上で、次の文章では先の文で提示した情報を文頭に出していくと、自然な書き方になるということです。

 

文と文をつなぐ接続詞・副詞

論理関係を説明するbecause等の接続詞やhowever・therefore等の副詞は論文の中で重要な役割を担っています。introductionでhoweverを見たら、大抵重要な情報が書いてあるくらい、議論の中で大切にすべき用語です。したがって、文と文をつなぐ接続詞・副詞を使う際は、筆者として十分に注意を払う必要があります。

考えるべきは、2文の関係と接続詞・副詞の役割です。接続詞・副詞が妥当であるかを常に意識しておくべきだと思います。

具体的に考えましょう。

これらの2文はいずれも「国立大学である」と言っているので、2文をつなぐならば内容を併記したり追加する接続詞・副詞が必要でしょう。

 

もう一つ具体例を。

これらの文では、知られている vs 知られていないという対立構造があるので、逆接の関係と捉えることができます。したがって、howeverを用いる場面となります(鉄板ですよね)。

 

このセクションでは、小学生の国語レベルの内容を述べています。しかし、文と文をクリアに接続できていないと、非常に読みにくい文章になります。「うん...???これは何に対するhoweverなんだ...???」となると、はっきり言って読む気が失せます。読者に読まれない論文は目的を達成できないので、いかに内容が良かろうと失敗作です。このように、接続詞・副詞は誤った使い方をすると文章全体を壊してしまうので、注意が必要だと考えてます。

 

最後に、1つの文章の中で工夫する内容です。数え切れないほどありますが、じぶんが最近意識している工夫を書き出します。

文章の長さをコントロールする

文章は長すぎてもダメだし、短すぎる文章が連発しても読みにくいとされます。一般に論文の英文は長くなりがちです。分けること + 組み直すことで、読みやすい文章になる可能性があります。

長過ぎる文章は読みにくい

基本は25 words以内で1文を作ることをこころがけると良いらしいです (English for Writing Research Papersより)。25 wordsって結構厳しい。そこで長くなりがちな文章を区切るためのいくつかのtipsを書きます。

  • 目的を伝える文章は、目的と実施内容で分けることを考える
    • 目的を伝える文章は、重要なことが多い。重要なことを端的に伝える文章にするべきなので、冗長に書くべきではない。
    • 「〇〇するために□□した」を分ける場合
    • 〇〇することが求められている。したがって、□□した。
    • □□した。その目的は〇〇である。
  • 接続詞・関係代名詞・関係副詞を使う場合は、2文に分けることを考える
    • 読みにくい例: Although child abuse, which can cause physical, mental, and behavioral problems and affect ones' health in later life, has been a public health issue for decades, and many professional responses to child abuse have been made, there is little evidence that its prevalence has decreased, which indicates that further collective actions for child abuse are needed.
    • なぜ長くて読みにくい?
      • althoughによる主節・従属節
      • child abuseを説明する関係代名詞which
      • althoughからdecreasedまでの1文を受ける関係代名詞which
    • 全部切る場合→ 4文へ
      1. Child abuse can cause physical, mental, and behavioral problems and affect ones' health in later life.
      2. Thus, it has been a public health issue for decades and many professional responses to child abuse have been made.
      3. However, there is little evidence that its prevalence has decreased.
      4. This indicates that further collective actions for child abuse are needed.
    • 主張したいトピックのかたまりで区切り直す
      • 「虐待の悪影響 + 多くの取り組みが行われてきた + けれどもまだまだ」という書き方の場合→ 1 / 2 / 3+4で3文へ
      • 「虐待は悪影響があり、多くの取り組みが行われてきた + けれどもまだ減っていない + 今後さらなる取り組み必要」→ 1+2 / 3 / 4で3文へ

このように、区切るポイントと組み直すポイントを押さえることが重要だと思います。結局意味のかたまりを作るだけなので、主張したい内容に合わせてバラバラにしたり、つなぎ直すことが可能です。レゴブロックみたいなものと思えば、かんたんに崩したりつなげたりできますよね。

ここは自分もすごく下手なので、意識し続けたいと思います。(あんまり良い例を提示できた気がしていない)

短すぎても読みにくい

これはあまり自分にないミスだと思いますが、短文を連発してもそれはそれで読みにくいということです。短い文章はインパクトがあるので、挿し込むなら「ここぞ!」という時に使うことが重要な模様。

 

安易に it is 構文を使わない

僕がめちゃくちゃやりがち it is 構文です。基本メッセージがぼやける様なので、素直な文章に書き換えましょう。例えばit is構文でこんな文章を書いたとします。

  • It would be helpful for Japanese public health researchers to read this blog for writing academi papers.(絶対そんなこと言えないw)

修正するとこんな感じ。

  • Japanese public health researchers should read this blog for writing academi papers.

助動詞や副詞をうまく使うことでit is構文を回避できるはずです。

 

一方、すべてのit is構文が悪かというとそうでもないと思います。僕が思う範囲でいうと、it is構文を使うことで読みやすくなる場合は次の2点です。

  1. 動作主を書かない場面で、主語がとても長い場合
  2. 動詞と形容詞を近づけたい場合

"Doing XXX is 形容詞" という文章でXXXが長い or それほど重要ではない場合は、it is構文が適切ではないかな?と思います。そうした場面では、it is 形容詞 to do XXXにしてあげることで読みやすいことがあるかと。

 

主題を冒頭に書く癖をやめる

「〇〇について」や「〇〇における」といった主題を冒頭に置きがちなのですが、それを英語で "as for 〇〇" とか書いちゃうのはあまりよろしくないという話です。日本語だと「〇〇における」は頻繁に見る気がするし、自分も書きがちなのですが、その癖を英語で書くととても読みにくい文章になると感じています。

直し方は主語+動詞で表現すること。

この記事がとにかくわかりやすいので、将来の自分は必ず読むように。

www.s.u-tokyo.ac.jp

 

 

論文を書くとき参考になるもの・まとめ

手元に置くもの

これらを手元において、文章を書こう。

  • reporting guidelines (STROBEとか)
  • 関連する論文複数
  • target journalが決まっているなら、その雑誌の論文
  • 康永先生の赤本

康永先生本は3500円なので、めちゃくちゃ安い。思考停止で買っちゃえばいいと思う。

www.kanehara-shuppan.co.jp

ライティング基礎

もっと基礎的なスキルの話。こういう内容はできるだけ早く知りたかったなあと思います。進学校や勉強・研究への支援が手厚い学校だと、高校生からこういう内容を学ぶらしい。すごい。

 

英語・日本語問わず、きれいな文章の作り方

わかりやすい・読みやすい英語の文章を書く際、「英語力」というよりも、言語能力の方が大事になる気がする。言語能力の上に、英語のスキルが乗っかるイメージです。本当に、言語能力も引き上げないとなあと常々思う。

 

結城浩先生の『数学的文章作法』は数学に関係しなくてもおすすめ

www.hyuki.com

 

『理科系の作文技術』は全部読むのはちょっとしんどかったなあという感想。構造に分解し、組み替えてみるという考え方を非常にうまく書いていた印象。とてもいい本。だけど、僕はしんどくなっちゃった。

www.chuko.co.jp

 

英語

SpringerのEnglish for Writing Research Papersは、例が豊富だし、だいたい網羅しているように思う。1文の書き方から全体の構成まで、チェックリストがついていることもすごく素敵。全部読み切ってなくて、辞書的に使ったことがある感じの感想でした。

link.springer.com

 

まとめ

備忘録的なので、文字量がとんでもないです。将来の自分、がんばって見返してね。

あと完璧主義になっても仕方がないので、修正しやすいであろう文章を作ったら、共著の方や誰かに見てもらおう。