「良い質問」は,良い研究・論文を考えることから始まると思う
所属している専攻の修士論文発表会では,質疑応答の時間に学生が学生に対して質問することが推奨されています.そして,教員が良い質問をした学生を評価する質問賞が設けられています.「あなた良い質問したね!」を褒めてもらえるわけです.良い試みですよね,楽しかったです.
私は質問することは結構大事だと思います.研究などの発表に質問をすることで,発表のさらなる改善を助けたり,自分の理解を深めることができると感じるからです.また,良い質問とは,その効果が大きいことを指すのでしょう.では,「良い質問」をするためには,何をどう考えれば良いのでしょう?今回は,個人的な意見を整理します.
良い悪いの前に質問自体が素晴らしい
良い質問/悪い質問の前に,基本的に他人の研究に対して質問をすること自体が素晴らしいことだと思います.もちろん攻撃的な質問(たとえば,「この研究に何の意味があるんですか?まったく体をなしていないと思います」)は,相手を傷つけるだけで何も生まないので,このような質問をするべきではありません.こうした攻撃的・否定的な質問を除けば,質問するということ自体が良いことだと感じます.
したがって,質問の良し悪しを考える前に,「〇〇がわからなかったので,教えて下さい」を言うだけでそもそも素晴らしい,ということが自分の意見です.1番シンプルな質問で全然okだと思います.悪い質問とか考えず,まずは素直に質問しようよ,と思います.
とはいえ,ゼミや発表会に参加していると,やっぱり良い質問ってありますよね.建設的な意見とか,ズバッと大事なことを質問している,とか.もう少し考えてみます.
"理想の研究・論文と目の前の発表内容におけるギャップ"を見つける
自分が理想と考える研究や論文の情報と,今聞いた発表との差を見つけることが,良い質問のスタート地点だと思います.理想と提示された研究発表とのギャップに基づいて「ここの情報 or 論拠 or 考察が足りなかったように思うのですが,どうお考えですか?」と聞けば,批判的に切り込んだ質問.ギャップを埋めるために「現在の発表だと,〇〇は足りなかったと感じました.□□のような内容を含めるともっと良くなると思いますが,ご意見いただけますか?」みたいに提示すると建設的.いずれもスタート地点は同じだと思います.
理想の研究って?
これは本当に個人の感想・考えです.領域や信念に従って自分なりの理想を考えればいいと思います.簡潔にまとめるなら,①新規性・有用性・尤もらしさの主張,②RQと手法の一致,③introductionとdiscussionが対応していること,の3点だと思っています.
Introduction
- big pictureを描けている
- 研究トピックの新規性・有用性・尤もらしさを提示できる
- 新規性: すでにわかりきったことを研究として発表されても困る.先行研究で何がわかっていて,何がわかっていないかを提示する.
- 有用性: 役に立たないであろう話をされても困る.これがわかるとどう嬉しいか,提示する.
- 尤もらしさ: その研究トピックがなぜ考えられるのか?突拍子もない話をされても困る.どうしてその仮説が尤もらしいのか提示する.可能なら理論に基づいて.
(descriptiveに提示するような研究であれば,ここは不要なことも.疾患の有病率を提示するような研究で「尤もらしさ」はない)
- big pictureからRQに向かって,話が一直線に絞られていく.
- 研究は全体の構成として砂時計型 (hourglass format) であるべき.
introductionでは,big pictureからRQに向かって,話題が単調に絞り込まれていくことになる. - 途中で「ところで」とか「あ,全然関係ないんやけど」といった割り込みはやめてほしい.
- 研究は全体の構成として砂時計型 (hourglass format) であるべき.
Method
- RQと手法が一致する(個人的に,methodはこの観点でしか聞いていない)
- 研究参加者の対象
- 変数の評価方法
- 解析手法
Results
(ここはあんまり文句言うことないかなあ.あるがままに記述して,きれいにtableとかfigureを作ればokだと思う)
Discussion
- methodとresultsに基づいて慎重に主張する.言えないことは言わない.
- introductionの伏線をちゃんと回収している.
- 結果の解釈
- 今回の結果と先行研究との一致・不一致.可能であれば効果・関連の大小.
「これまでに〇〇がわかっています」という新規性を主張する部分で引用した論文が登場するイメージ. - どうしてそういう結果になったのか,考察.
「この研究トピックは△△ということから考えられます」と仮説の尤もらしさをintroductionで提示しているので,結果を踏まえてさらに考察する.
- 今回の結果と先行研究との一致・不一致.可能であれば効果・関連の大小.
- 有用性の主張
- 結果がわかった上で,どう役立ちそうか主張する.
「このRQがわかると役に立つ」と有用性をintroductionで主張しているのだから,結果がわかった上でどうなのかを提示. - 将来の研究にとって役立つこと,実践にとって役立つこと,等領域ごとに書く内容は変わりうることに注意.
- 結果がわかった上で,どう役立ちそうか主張する.
- 結果の解釈
- 限界を整理する.可能ならjustifyする.
- 正当化していると面白い.
「XXの限界がある.とはいえ,XXによってこう結果が歪みうるので,今回の結論には問題がないだろう」みたいな論文大好き.
- 正当化していると面白い.
※自分の理想を整理すると,「気に食わねえなあ,この研究」と思ったときのモヤモヤ感を言語化しやすいのでオススメ
質問をまろやかにする
"自分の理想 - 目の前にある研究" の引き算を実行して,質問したいことができたとします.自分なりに理想と現状のギャップを埋めるためのアイデアがあれば,それを伝えましょう.建設的な質問・議論になって,とても有意義だと思います.
ギャップを埋めるためのアイデアは無いが,重要であろう質問を思いついたとします.これは少し危険です.そのまま質問をぶつけると,めちゃくちゃ怖い質問になりがちです.火の玉ストレートというやつです.
表現をマイルドにするテンプレートをいくつか用意しておきましょう.自分の中の一例を紹介します.
質問の導入
- とりあえず褒める
- 怖そうな態度を取らない
- 「わからなかったので教えていただきたい」
- 「自分の理解が追いついているか曖昧なので,確認させてください」
- 「興味のある分野でぜひ勉強したいから,教えて下さい」
質問の内容
基本具体的にしてあげると,急にマイルドになると思っています.(具体例を自分で作らなくちゃいけないのでやや面倒)
- NG: 〇〇バイアスがあると限界で言っていますが,どういうメカニズムでそのバイアスが起こりますか?
- → 〇〇バイアスについて,例えばXXXがあると思いますけど,その他に考えているものがあれば教えて下さい
- NG②: この手法で評価しているものは,正しく測りたいものを評価できているのでしょうか?
- ここで評価しているYYYは,やや限界が残ると思います.例えばαとβの問題があるのではないかと感じました.その点についてご意見伺ってもよろしいでしょうか?
その他,自分の中でありがちな質問をいくつか.なお,全然NGと実際の質問が一致していない気がするのですが,ふんわり質問から入ると,本題に切り込んだ場合の恐怖感を減らせているんじゃないかと感じます.
- 尤もらしさの質問のNG例: なぜこの仮説が導かれるのですか?
- この研究のアイデアを思いついた経緯を教えてください
- 有用性の質問のNG例: この結果は,どう役に立つんですか?
- この結果を踏まえて,どう活かしたいですか?
- この結果や考察を,誰に1番届けたいですか?どういうアクションを期待しますか?
- 限界に対する質問のNG例: 〇〇を限界としていましたが,どういう意味で限界なんですか?これによって,結果がどう歪みうるのですか?
- もしデータセットや資金・時間などが理想的な状態で,同じ研究仮説を調べられるとすると,どうしたいですか?
- RQと手法の不一致のNG例: 仮説として〇〇を提示しているのに,手法がうまく対応していないので,この仮説を正しく調べられていないと思います.なぜこの手法を選んだのですか?
- NG例②のように,できるだけ具体的に.
まとめ
- 「良い質問」とは,理想の研究と現状とのギャップを考えることから始まると思う.
- できるだけ答えやすくしてあげよう
- 具体的に指摘
- ふんわり質問を用意しておく
普段から「良い質問だ!」と思ったら蓄積する,という習慣をつけていると上手くなれるかもしれませんね.